⑬みほとけとの対話 (岡部伊都子)


昭和40年発行 淡交社

 

随筆家、大阪市出身。高等女学校を病気のため中退。婚約者が沖縄戦で戦死し、戦後すぐ結婚したが7年後に離婚。美術・伝統・自然・歴史などの随筆のほか自身の経験を踏まえた戦争や社会問題などに対してもこまやかな鋭い視線を注いだ。

 

2008年4月に逝去。85歳没 。ただの随筆家ではなく教えられることが多い。こういう方が石位寺に来られていた事を誇りに思う。以下、石位寺の項から抜粋

 

 あたたかな石仏 石位寺 三尊仏 石があったかくて、なつかしいものだと、つくづく思ったのは はじめて石位寺の石像にであったときのこと。 

白鳳時代の作と伝えられるこの三尊は、いまきりだしてきたばかのように新鮮な、美しい石の膚をしていた。天蓋蓮座のモダンな図案。光背の単純さもかえつて気品をまし、なんともいえない美しい石仏である。このごろは、拓本をとられたのか黒ずんでしまった部分もあり、もっとみんなが、石なればこその新鮮さをたいせつにしなくては もったいないと思う。

 

唇にさしてある主がうすくのこつている。脇侍仏の合掌は、ふたつのてのひらに、さぞあったかなぬくみがあるだろうと思わせるように、肉厚くあわせられている。向かつて左の下すみに、ぽつんと刻まれてあるつぼが、またなんともいえない。この石仏をたずねて、あがってゆく寺への小さな石段が、ひとに忘れられたようにひなびているのもいい。