④よみがえる万葉大和路 (中西 進)


(株式会社ランダムハウス講談社) 平成22年

この本は「平城遷都1300年記念出版」として出された本で本文は万葉学者の中西進、写真は現在奈良を代表する写真家の井上博道が担当。県下の数ある万葉故地の中から忍阪が万葉の隠れ里として3ページにわたり紹介されています。中西進は忍阪への思いをこう綴っています。

 

「 忍阪内陵とは舒明天皇の陵である。天皇は最初、明日香の冬野と推定される滑谷岡に埋葬されたが、のちこの地に改葬されたという(皇極元年十二月紀)。そしていま母や娘といっしょにこの地に眠っている。 わが子が大智、天武そして間人皇后である。この天皇を思いうかべると、新しい時代への太転換期に苦労した天皇としての重おもしい姿が見えてくる。聖徳太子の時代から血の革命だった大化の改新まで、重苦しい時代を堪え抜いた天皇ではなかったか。明日香の地への埋葬とは新しい時代への組み入れのように思えるのだが、改めて忍阪という「古代」の地へと眠りの床を定めて、はじめて安らぎがあったように思う。 それほどに忍阪へくると、わたしはなぜかいつもほっとする。とくにこの王陵に守られるように、奥に眠る鏡王女の墓にもうでると、王女のささやかな円墳はそれなりにつつましく、安らいでいるように見える。」